料理撮影でもシフトレンズを使ってみよう!

カメラ機材

前回の記事ではメインのカメラがニコンD850でシフトレンズを組み合わせて使うことが多いと書きました。

シフトレンズというのは少し特殊なレンズです。

マニュアル操作で、フォーカスと絞り以外にシフト、チルトという動きができるようになっています。

通常の撮影ではあまり使わないと思いますが、商品撮影や建築撮影などでは良く使われます。

また、ジオラマ風の作品撮影などで使われている方もいます。

今回は料理撮影でのシフトレンズの使い方についてご紹介します。

シフトレンズとはどのようなレンズ?

シフトレンズはイメージセンサー面に対してレンズを平行にずらす(シフト)機能と角度を変える(チルト)機能を併せ持ったレンズで、正しく言うならばシフト&チルトレンズです。

で、シフト&チルトとは何か?ということですが、簡単にいうと被写体の形を変えることと、ピントの範囲の変更ができるレンズです。

主に商品撮影や建築撮影での形の補正や意図的にピントを深くしたり、浅くしたりといった使い方ができます。

シフトレンズには広角、標準、中望遠のレンズがありますが、広角は建築撮影で使われることが多く、標準や中望遠は商品撮影や料理撮影で多く使われます。

用途はどちらも被写体の歪み補正とピントの調整になります。

シフトレンズはどのように動くのか?

シフトレンズはどのような動きをするのでしょうか?

今回はニコンのPC-E Micro NIKKOR 45mm f/2.8EDで見てみましょう。

まずシフトですが、左右に11.5mmずつスライドします。

チルトは上下に8.5度傾きます。

レンズは360度回転するので、シフトを上下にするとチルトは左右になります。

また、回転は45度の位置でも止まるので斜め方向のシフトとチルトも可能です。

しかし、シフトとチルトは常に90度の角度に固定されているので、同じ方向でシフトとチルトを効かすことはできません。

なぜ形の補正やピントの調整ができるのか?

ではなぜ形の補正やピントの調整ができるのでしょうか?

シフト機能の使い方例

カメラが被写体の垂直の線に対して真正面の位置から見れば、被写体にパース(遠近感)がつくことなく、まっすぐな線に写ります。

しかし、斜め下や上から見ると、カメラの中心線から外れた部分はパースがついて斜めの線になります。

カメラを被写体の上や下から見ながら、カメラを傾けなければ被写体にパースがつくことはありませんが、被写体全体は写りません。

その際、シフトの機能を使ってレンズを下か上にスライドすることで、カメラを傾けることなく被写体の全体を捉えることができます。

カメラ自体は傾いていないので、被写体の直線にパースがつくことはなく、まっすぐに写すことができます。

チルト機能の使い方例

例えばテーブル上にお皿などが並んでいて、カメラを斜俯瞰の位置から見たい場合、手前のお皿にピントを合わせると奥に行くに従ってピントはボケていきます。

その時、チルトの機能を使ってレンズだけをテーブル方向に傾けていくとテーブルの全面にフォーカスが合う角度があります。

これは「シャシンプルーフの原理」と呼ばれるものです。

この機能を使うと任意の面の全体にフォーカスを合わせることができます。

この機能を反対に使ってテーブルの面と逆方向に傾けると一点を除く全面を大きくぼかすこともできます。

アオリなし
全面フォーカス
ボカシ

ビューカメラでよく使われた機能

シフト&チルトはもともとビューカメラに備わっている機能で、レンズ側とフィルム側のボードを別々に上下左右にスライドさせたり、傾けたりできます。

ビューカメラではシフトとチルトを同じ方向にかけたり、上方向のシフトと横方向のシフトを同時にかけたりと、複数の動きを同時に行うことができます。

ビューカメラでは左右のスライドをシフト、上下のスライドをライズフォール、前後の傾きをチルト、左右の傾きをスウィングと呼び、すべての動きをひとまとめにして「アオリ」と言います。

35mmのシフトレンズではこの機能を簡略化してシフトとチルトをそれぞれ一方向ずつかけられるようになっています。

ビューカメラの動きに比べてシフトレンズの動きは少なく制限がありますが、普通のレンズに比べればかなりの効果が出せるので大変便利です。

シフトレンズで代表的なのはキヤノンとニコン

シフトレンズは全てのカメラメーカーが出しているわけではありません。

35mmカメラではキヤノンとニコンが出しています。

他にもレンズメーカーのいくつかでシフトレンズが出ています。

また、レンズと組み合わせて使う、シフトアダプターを出しているメーカーもあります。

キヤノンとニコンのレンズラインアップ

キヤノンの場合はEFマウントのTS-Eレンズで17mm、24mm、45mm、90mm、135mmの5本がラインアップされています。

ニコンの場合はPCもしくはPC-Eレンズで19mm、24mm、45mm、85mmの4本がラインアップされています。

ただ、どちらも旧タイプのマウントで徐々に販売終了になってきています。

新しいミラーレス用のマウントでは、どちらのメーカーもシフトレンズは出ていないので、いずれは無くなっていくのかもしれません。

35mmではなく、さらに大きな中判カメラではフジフィルムが中判ミラーレスカメラ用のシフトレンズを出しています。

また、ハッセルブラッドなどでは通常のレンズと専用のシフトチルトアダプターを組み合わせてアオリが可能になっています。

シフトレンズの使用例

それではさらに具体的にシフトレンズの使用例についていくつかの例をみていきます。

基本的な使い方

パースペクティブのコントロール

奥行きのあるものを撮影するときには、パース(遠近感)による形の歪みが生じます。

シフトを使うことで、そのパースによる歪みを補正することができます。

パースあり
パース補正

ピント範囲の変更

通常、ピントの山は一箇所(一面)で、そこから前後に離れていくほどピントが外れていきます。

しかし、チルトを使うことで前後の面のすべてにピントを合わせることができます。

これは「シャインプルーフの原理」といいます。ここでは詳しい説明はできませんが、こちらのサイトに詳しく説明されておりますので参考にしてください。

応用的な使い方

カメラを逃がす

鏡などの反射物を撮影する時に真正面からカメラを構えると、被写体にカメラが写り込んでしまいます。

そのような時にあえて被写体の正面からズレた位置にカメラを構えて撮影します。

通常のレンズでは正面でないところから撮影すると被写体にパースがついてしまいますが、シフトを使うとパースが補正されて正面から見ているように見えます。

もちろん、本当に正面で見ているわけではないので、あくまでそう見えるということです。

カメラ正面
カメラ逃がし+アオリ

パースの強調

広角レンズによるパースペクティブをあえて強調するような写真にします。

シフトを逆に使うことでカメラと被写体の角度を大きくし、形の歪みを強くします。

ぼかしを強める

絞りによるぼかし以上にボケ感を出したいときなど、絞りによるぼかしとは違うぼかしを作ることができます。

ピントを合わせる方向とは逆方向にチルトすることでぼかしを作ることができます。

絞りを絞り込んだ状態でもぼかすことができるので、日中の明るいところでも開放絞りのようなぼかしを作ることができます。

ぼかしを強める使い方を使ってミニチュア風の風景写真を撮ることができます。

ミニチュア風の風景写真は高いところから下を見下ろして撮影すると比較的簡単に撮影できます。

料理撮影でのシフトレンズの使い方

俯瞰撮影での使い方

料理を真俯瞰で撮る場合、一皿料理でしたらそれほど難しいことはありません。

しかし、コース料理のように複数品を同時に真俯瞰で撮影するのは思ったより大変です。

テーブルの真ん中の真上にカメラを設置するのも大変なのですが、そのカメラのファインダーをのぞくのも大変です。

液晶モニターで見ることもできますが、それでもかなり大変な姿勢をしなければなりません。

そのような時にテーブルと平行にカメラを構えて少しだけ真ん中よりも下にカメラを設置すると、カメラの操作がかなり楽になります。

しかし、テーブルの上のほうは見切れてしまうので、シフトを使ってテーブルを画面の真ん中に移動させます。

よほど背の高い器がない限り、この方法で真俯瞰に見せることができます。

作例は皿ではないですが、カメラの正面でそのまま撮影したものとシフトで正面にずらしたものです。

俯瞰正面
俯瞰シフト

ボトル撮影での使い方

ボトルを正面から撮影する際にボトルにカメラが写り込んでしまうことがあります。その時にはカメラを少し下に下げてラベルなどの中にカメラが逃げられるようにします。

その時、ボトルの上が見切れてしまうからといって、カメラを下からアオってしまうとボトルにパースがついてしまいます。

ボトルの上が見切れてもカメラの水平垂直は変更せずにレンズをシフトして上げると、画面の中心にボトルが戻ってきます。

テーブル撮影での使い方

テーブルに皿とボトルやグラスが並べてあるシチュエーションの撮影を行うとき、ボトルが画面の端にあるとパースにより傾いて見えてしまいます。

その場合にはボトルをなるべく中心に近い位置に配置をしますが、完全に画面の真ん中でないと傾いてしまいます。

その場合には画面の真ん中にボトルが来るようにフレーミングします。ボトルがまっすぐになっていることを確認したらシフトで横にずらし、本来の画面位置に戻します。

ぼかして雰囲気を出す

手前の料理にピントを合わせた状態で、できるだけ前後をぼかしたい時には絞りを開放に近く、シャープさが失われない絞りにした上で、チルトを操作してピントの合う方向と逆の方向にアオリます。

ファインダーを見ながらちょうどいいボケ具合を確認します。

ピントを深くして料理全てを見せる

コース料理などで全ての料理にピントを合わせたいときには、斜俯瞰の角度が45度から60度くらいになるようにカメラのアングルをセットします。45度よりも浅い角度になっていくと奥行きが長くなるため、ピントは合いづらくなっていきます。

ファインダーを見ながらチルトでレンズを前側に倒していき、全体にピントがくるようにします。チルトとピントを少しずつ調整しながらピントの位置を決めていきます。

シフトレンズのデメリット

ここまで、シフトレンズで何ができるのかをお話ししてきましたが、ここではシフトレンズのデメリットについてお話ししていきたいと思います。

マニュアル操作しか出来ない

シフトレンズはオートフォーカスには対応していません。また、絞りもオートにはなりません。

マニュアルフォーカスとマニュアルで絞りを操作する必要があります。

絞りがマニュアルですので、絞り優先オートで撮影はできますが、シャッタースピード優先オートやプログラムオートについては使用できません。

連写などがしづらい

シフトレンズはフォーカスがマニュアルなので、調理中や盛り付け中などの動きのあるカットで連写したいときなどにはあまり向いていません。

新しいマウントのレンズが無い

シフトレンズはニコンだとFマウント、キヤノンだとEFマウントのレンズです。

ニコンのZマウントやキヤノンのRFマウントなどの新しいミラーレス機に採用されているマウントではありません。そのため、新しいミラーレス機で使いたいときにはマウントアダプターで変換して使う必要があります。

旧マウントのレンズは少しずつ販売が終了していく可能性があり、ニコンのPC-Eレンズはすべて、すでに販売終了となっています。キヤノンも一部のみ残っていますが、徐々に販売終了していく可能性があります。

また、ニコンもキヤノンも新しいマウントでシフトチルトレンズは今のところ作られておらず、今後も作られないかもしれません。ですので、今後シフトレンズは中古品のみになっていく可能性があります。

色収差などが出やすい

シフトチルトレンズは大きくシフトやチルトを行うと、画像に色収差が出てきます。

また、画像のシャープさも落ちることがあります。

何もアオリを使わずに撮影して、後から画像処理でパースの補正やピントの補正をした方が結果が良い場合もあります。

シフトレンズの替わりとなる撮り方や後処理方法

ミラーレス一眼用のレンズにシフトチルトレンズがないのと、旧マウントでのシフトチルトレンズも販売終了になってきているので、これからシフトチルトレンズを使うことは難しくなっていくと考えられます。

そこで、シフトチルトレンズを使わずにパースの補正や全ピンにする方法を解説いたします。

通常のレンズを使うときの注意点

通常のレンズを使う場合、できるだけ歪みがでないように撮影をします。

料理を単体で撮影する際には、広角より望遠を使うことで歪みが少なくなります。

また、できるだけ真ん中にフレーミングしておき、後からトリミングします。

また、被写体に対してカメラの角度がつくと歪みが大きくなるので、できるだけ角度を付けずに撮影を行います。その場合も画面を広めにフレーミングしておき、後からトリミングをします。

広角レンズ(24mm)アオリなし
中望遠(85mm)アオリなし

Photoshopでのパース補正

Photoshopの編集→変形→歪み、遠近法、ワープなどを使って形を変形させてパースを補正します。

ガイドを表示させて水平、垂直をそろえるようにします。

変形を使うと画面の端が大きく削られるため、撮影時に小さめに撮影し、トリミングをします。

本来のフルサイズの画素数の2/3程度の解像度になるため、撮影時にもできるだけ画素数の大きなカメラを使うと、トリミング後もある程度のファイルサイズを確保できます。

焦点合成で全ピンにする

ピントを少しずつ送りながら10枚〜30枚程度の画像を撮影しておき、焦点合成します。

Photoshopの場合

Brigeから全ての画像を選択し、Photoshopで開くで画像を開きます。

画像を開いたらすべてのレイヤーを選択し、自動整列をします。

次に再度すべてのレイヤーを選択し、自動合成を選択すると全ピンの画像となります。

画像を拡大し、合成がうまく出来ていないところをスタンプツールなどを使って直します。

ヘリコンフォーカスの場合

ヘリコンフォーカスを開いて、すべての画像をドラッグ&ドロップします。

レンダリングをすると画像が合成されます。

保存でファイルを保存し、フォトショップで開いて合成がうまくいっていない部分がないかを確認します。

焦点合成用1/16枚目
焦点合成済(16枚合成)

画像をぼかす

Photoshopで「レンズぼかし」を使って自然な奥行きのあるぼかしを入れていきます。

メニュー「フィルター」→「Camera Rawフィルター」→「ぼかし(レンズ)」を選択し、パラメータを調整します。

細かな部分は再度ぼかしツールなどで調整して仕上げます。

中心を逃がす

中心を逃すアングルで撮影します。

パースをPhotoshopの変形ツールを使って補正し、仕上げます。

まとめ

今回は料理撮影でのシフトレンズの使い方をお話ししました。

シフトレンズについて

シフトレンズはレンズの光軸を上下左右にずらしたり(シフト)、前後左右に傾けたり(チルト)できるレンズです。

ニコンとキヤノンの旧マウントで広角から中望遠までのレンズが出ていますが、ニコンはすでに発売を終了しており、キヤノンも一部のレンズを除いて発売を終了しています。

現在のところ、ニコンもキヤノンもミラーレスカメラのマウントではシフトレンズを出していません。

シフトは撮影範囲をずらしたり、パースペクティブ(遠近感)をコントロールして被写体の形を補正するなどができる機能です。

チルトは焦点位置や範囲を変更して、パンフォーカスにしたり、ぼかしを強調するなどができる機能です。

シフトレンズは普通のレンズとは違ってさまざまな効果を使えるとても便利なレンズですが、マニュアル操作しかできないため、動きのある被写体などで連写を必要とする際にはあまり向いていません。

基本的な使い方

パースコントロール(形の補正)、ピント範囲の変更(パンフォーカス)の2つが基本的な使い方になります。

応用的な使い方

被写体の形を変えずにカメラ位置をずらす、ピントのボケ感を強調するなどの使い方があります。

ミニチュア風の風景撮影などもシフトレンズで撮ることができます。

シフトレンズを使わずに同じような効果を得る方法

シフトレンズは便利ですが、使うのに慣れが必要なのと手に入れるのが難しくなってきていることもあり、Photoshopなどの画像処理で同じような効果を得る方法も必要になってきています。

パンフォーカスを得るには「焦点合成」、ぼかしを得るには「ぼかし(レンズ)」、パースによる形の補正には「変形」などを使います。

シフトレンズ以外のレンズを使う場合

シフトレンズ以外のレンズを使う際には、できるだけ歪まないように焦点距離やフレーミングなどの工夫をし、後からトリミングをして本来のフレーミングにします。

いかがでしたでしょうか?

以上が料理撮影でのシフトレンズの使い方になります。

シフトレンズは使い方によって様々な効果が出せる便利なレンズです。

Photoshopなどを使って同じような効果を出すこともできますが、シフトレンズを使えば撮影時に最終的な仕上がりを確認しながら進めることができるので、お客様も安心できるという利点があります。

以上、参考にしていただけますと幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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